アテネで『ヴェンダースの友人』を観た。 均さんは、まだ若く、40代前半だろうか。 交差点の向こうから、カメラへ向かって横断歩道を駆けてくる姿は、妖精のようだった。 後のシーン、友人1・高岡氏との会話で天使の話題になるので、天使と評した方が良いのだろうが。
僕が均さんと出会ったのは、この撮影より後だ。 『のんきな姉さん』の試写後、まくし立てて(「お前の映画は誰にも似ていない」と)去って行った後、越川氏が「日本で一番映画を観ているかもしれないヴェンダースの友人」と説明してくれて、まだその時はこの作品を知らなかったので、?となった。 それから、断続的なつきあいが20年ほど。 今は、うちの近所に住んでいる。 だが、会うことは滅多にない。
映画はやはり、人間が見えるとき、心を揺さぶる。 20年近く経って、久々に観て、しみじみと良かった。 この作品が、井土の最良の映画ではないだろうか? 本人にもそれを伝えて、苦笑いされ、アテネを出た。
プロか素人かという問いがあった。 それがまだ問えるほどに、世界は清らかだった。 何者にもならない純粋が、ぎりぎり残されていた。 妖精は老境で何を思っているだろう。 僕も歳を取り、変わってしまった世界に戸惑うばかりだ。
いけすかない六本木ヒルズに来て、今、これを記している。 これから、「マシン・ラブ」の展示を見る。
|