

この映画が写し出すのは、ありふれた日常の、ありえない光景。そこには人が、ほとんど姿を見せないのだ。誰もいないのに、気配だけあり、声がさざめく。それは恐ろしいほど美しい心象風景。冬の淡くうつろう光を狙い、足掛け二年の歳月をかけて撮影された映像詩が、人を写す以上に、人の孤独を、情感を浮き彫りにする。
記憶の奥深くまで語りかけてくる、奇妙な物語。そして、存在すら確かでない登場人物たち…。その声に耳をすまし、不可思議な映像に身をゆだねていると、主人公の女性・青地の心の奥底が、やがてレントゲン写真のように浮かびあがってくる。露わになった、人の心の危うさを垣間見るとき、我々は、いまだかつて観たことのない、まったく新しい映画体験をする。
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