気がつけば、師走も半分が過ぎ、今年もいよいよ終わりですね。 お祭りのようだった特集上映が終了して、早ひと月余り。 余韻に浸る間もなく、いつものように、ひたすら雑事をこなしながら、ぼんやり過ごしております。 ぼんやり、とは言え、日々いろいろなことがあるわけで。 昨日の選挙結果には、絶望的な気持ちになりました。 お先真っ暗、困ったものです。 でも、まあ腹を据えて、表現と向き合っていこうじゃないか、とも思います。
特集が終わってまず観に行ったのが、ブレッソンの 『白夜』。 恥ずかしながら、初めて観まして。 ああ、これだったのね、と。 カラックスをはじめ、今まで虜にされてきたある種の映画―― それは、孤独な魂をめぐる映画とでも言いましょうか、 その原点が、あれなんですね。 何なんでしょう、あのグサッとくる感じ。 震えが止まりませんでした。
他にもいろいろ、いいものを観まして。 生西康典氏の 「燃える人影」 には、実にシンパシーを感じたし、 牧野くんの 「+」 上映会では、葉山嶺さんの 『EMBLEM』 に夢見心地になったし。 福間さんの 『あるいは佐々木ユキ』 や、ミランダ・ジュライの 『ザ・フューチャー』 も良かった! で、先日。 原稿明けの休息に、近所の映画館でアルドリッチ三昧楽しもうと (あ、二本ですが)、 『合衆国最後の日』 と 『カリフォルニアドールズ』 を観まして。 すっかりいい気分で、ドールズ・コールを頭に鳴り響かせていたら、不意に着信。 訃報に絶句。 耳を疑いました。 ついこないだスクリーンに、彼女の可憐な演技を観たばかりだったから。
『のんき』 で弟のガールフレンド、華子役を演じてくれた梓さん。 初公開のとき以来、10年近くお会いすることはなかったけれど、 知人の映画で目にするたびに、ああ頑張っているのだなと嬉しく思っていたのに。 36歳。 若過ぎるよ。 自分の死期を悟ったとき、どれほど無念だったろうか。 うーん、堪え切れず、駆けつけ一杯。 安酒をあおっているうち、現場の当時の記憶がよみがえってきました。 『のんき』 に出演してもらったのは、助監督だった西川美和さんが、 是枝組で良い女優さんがいたと、紹介してくれたのがきっかけ。 一目で、カンのいい子だなと思い、信頼しました。 リハーサルでは、弟役の塩田くんとの天才的なやり取りが、見てるだけで楽しくて。
彼女が演じた華子という役は、原作には無い、僕が加えた登場人物。 最初に書いた脚本では、もっともっと様々なエピソードが連なる、 思い入れ深い役どころでした。 だから、華子があの作品世界からいなくなる最後の場面、 姉の妊娠について、切ない告白をされる芝居の長廻しは、 台本にある演技が終わっても、カットがかけられず。 そんな心情を察してか、撮影のたむらさんは、 去っていく弟をカメラで追わずに、立ち上がれない華子に戻して撮り続けた。 そのままじっと見つめていると、彼女はしばらくして、何かを決意したように、 ふっと、落とした目線を上げ、そこでフィルムが落ちた。 印象的な表情でした。 あれが、梓さんの、僕の映画の最後だったのだなあ… フィルムが落ちる寸前に焼きつけられた、 あの表情は、永遠です。 合掌。
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