終了済みのイベントなどの模様の一部をお伝えしていきます ──
トークショー 05
黒沢清監督(映画監督) ×七里圭監督
2008.4/15(火)@シネマアートン下北沢
3度目のアンコール上映が行われたシネマアートン下北沢では、今や世界の黒沢こと、黒沢清監督をお迎えしてトークショーが行われました。
新作『トウキョウソナタ』(2008年9月公開)の仕上げ中のお忙しい中をお越しいただきましたが、客席は黒沢清ファンらしき方も駆けつけて満席状態。さまざまな質問、感想のお言葉が飛び交う、内容の濃いトークショーとなりました。
以下ほんの一部のみ抜粋します (*敬称略) ──
黒沢
「素晴らしい映画だと思います。この独特の形式… 聞いていても、ただの声だけのドラマとはとても思えない、まあ、七里さんが先ほど言われたように、サウンドトラックだけが見つかった、本当は映像もちゃんとあった映画… そういう意味で、動きも含めてちゃんと演出されている音、のように聞こえました。それに合わせて、あの、美しい ── という言い方はあまりにも陳腐な言い方だとは思いますが、それにしても息をのむような映像が連なっているわけですが、まあ他の作品でも、七里さんの作品って、やっぱり本当に光をとても重要視しているように見えるんですが、やっぱり映像ってほとんどご自分でカメラをまわしていらっしゃるんでしょうか?」
七里
「あの… そうですね。えーと、『のんきな姉さん』(2003年)はもちろん田村正毅さんがカメラなんですけども、『眠り姫』は、ほぼ自分でまわしました。それは、あの、カメラを覗きながら映画を撮るということを、もう一度やってみたかったんです。僕もその、長いこと助監督をやってて、現場を続けているんですけど、その前は自主映画をやっていたんで、もう一度なんかその、カメラを覗いて映画を撮るっていうことを、やってみたくなったんですよね」
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黒沢
「映像を撮ってらっしゃる時、何を考えて、というのも変な言い方ですけど、あの、まあ、それが起こっている、例えば職員室とかですね、音が聞こえているその場所が、まあ映っているんだろうと思うわけですが、それはやはりそういう設定で場所を探して撮影された、ということですか?」
七里
「えーと、いろんなことを考えていたんですけど… その、人の意識みたいなものを… って、なんか高尚なことを言い始めてしまいそうですが(笑) ──」
黒沢
「お願いします(笑) ──」
七里
「人の意識の流れ、みたいなものって、その、映画ってすごく具体的なものなんでどう捉えたらいいのか分からないんですが、でもそういうことをちょっとこう、映画にしてみたいな、と思ったんですね。で、そう考えていくと、人の意識って一つではないな、というか… まあ離人症という病気もありますけども、自分の中にいろんな他者がいるわけで… だからそれをどうやって、どういうふうにしていけばそういう視線になったり、気配になったりしていくのかっていうのを考えていくと、たぶん自分が混乱しながら、自分がカメラを通して世界と向き合っていって、それが混乱していればそう映るんではないか、という…」
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黒沢
「あの、まあ誰も映っていないというのは嘘で、女性は、もちろんはっきりと明確には映っていませんけど、まあ映っているわけですね。あれは… つぐみ… なんですか?」
七里
「えーと…」
黒沢
「最初。一瞬そうなのかな、と思いながら確証がないまま観てしまっていたんですが ──」
七里
「あそこはもちろんそうです。ただ、えーと… そういうことだったもんですから、たくさんの女性でひとりの人間を構成しようと思ったんですね。 なので後ろ姿だとか、遠くにちょっと見えて、こう、すれ違ったりだとかする女性は何人かでやっています」
黒沢
「あ、そうなんですか」
七里
「はい」
黒沢
「車の中から一瞬ふわっと歩いているのが見えたりする… まあ、すごいカットだなと思ったんですけど、その、ずーっと前進してきて、ひゅっとすれ違う、ああいうのも違う方なんですか?」
七里
「ええ。あの… 自分かもしれない、っていうことをやりたかったので、その… まったく違う人には見えないギリギリの背丈、格好、雰囲気の方を集めたりしてですね…」
黒沢
「贅沢なことやってらっしゃいますね」
七里
「ええ、まあ自主映画なんで…(笑)」
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黒沢
「最後、一瞬振り向いた… のは、つぐみさんなんですか?」
七里
「はい」
黒沢
「振り向いた、というか、トイレから出てきたというか…」
七里
「あれはドッペルゲンガーです…(笑)」
黒沢
「ドッペルゲンガーですか」
七里
「はい…(笑)」
黒沢
「ああ、確かにトイレの中に誰かいる、っていって、確かに、自分自身がいた、ということなんですかね… ああ、なるほどね、僕はそこまでちょっと読み込めなかったんですけど、こう、つぐみさん、主人公と言っていいのかな、彼女と彼女に似たちょっと違うような人とがいくつか分裂してあちこちに… 映画のあちこちに散らばっている、といったことなんですか?」
七里
「ええ」
黒沢
「なるほど、面白いな…」
その後、黒沢清作品と『眠り姫』との意外な共通点などにもふれながら、かなり突っ込んだ内容のトークが続いていきました…
もちろん予定終了時刻は大オーバーとなりました。
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トークショー 04
束芋さん(現代美術アーティスト) ×七里圭監督
2007.12/14(金)@渋谷ユーロスペース
ユーロスペースの楽日は、独自の視点から日本を描いたインスタレーション作品をはじめ、様々な国際展への出品などで国内だけでなく海外からも高い評価を受けている、そして最近では新聞の連載小説の挿絵(朝日新聞夕刊「悪人」吉田修一著/2006年3月〜2007年1月連載)のその独特なタッチが大きな話題をよんだ、気鋭の現代美術アーティスト・束芋さんをお迎えしてトークショーが行われました。
以下ほんの一部のみ抜粋します (*敬称略) ──
束芋
「この『眠り姫』ってすごく好きな映画なんです。でも好きな理由がはじめ分からなかったんですよね。やっぱり、人が出てこないっていうのは、私にとってすごく苦痛なんじゃないかと思って観はじめたんですけど、それがだんだんすごい心地よくなってきて、眠くなるかと思いきやまったく眠くならずに… っていうのが私にとってすごい不思議で。なんで好きなのかなーってずっと考えてきたんですけど、私の中のとてもいい時間、すごくいい時間に似てるんです。自分が物をつくる姿勢に入った時に、アイデアをがーっと出していく瞬間があるんですけど、その時間に似ていて、一点をこう見つめて、頭が、脳が、ばーっといい形で動き出した瞬間、それが5分ぐらい続くのが普通なんですけど、それがこの映画を観てる間はまるで2時間体験してたような感じで… で、いまこの映画を思い出すと、夢日記を書いていてずーっと情景を思い出してるような感覚にも似ている… その二種類の、私がすごく好きな時間に似ていたんです──」
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七里
「あの… 僕は初めて束芋さんの美術展を観にいったのは「ヨロヨロン展」だったんですけど、なんていうんですかね、今の時代の、社会派とかなんかのジャンルにわけられない、何か感覚 ── 恐怖でもないし、可笑しさでもないし、なんていうのか… おどろおどろしさ… すごくこう宙ぶらりんな感覚にさせられるところがあって、もしかしたら自分が考えてることとも接点がある方なのかな、とずっと思っていたので今回とても嬉しいんです(笑) ──」
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束芋
「私も「悪人」(*新聞の連載小説)の挿絵を描くとき顔を描かないって決めたんです。それは逆にストーリーの幅を広げられる効果… っていうのがあったんじゃないかなあって思っていて ──」
七里
「たぶんその頃、僕は毎日その小説を読んでたと思うんですけど…(笑)、っていう話を、先ほど控室でしてたんですけど(笑) ──」
束芋
「顔を描かないっていうルールを決めたことで「悪人」の挿絵はすごく広がりが出た。この『眠り姫』も人が映り込まないっていうことで、ほんとこの会場にいらっしゃる方それぞれがひとりの人間のキャラクターをつくっていく… 自分の体験した、その実体験の中からそこにヴィジュアルを付加していく… それはすごく積極的な作業だと思うんですよ。だから、私もこの作品を観た時にすごく自分に引きよせて、考えすぎて、私にとってはあと数年すると、この中の誰かのキャラクターと自分をすげ替えてしまうんじゃないかと… 映画としてではなく、こう記憶として残ってしまうんじゃないかなーっていう気もしてるぐらいです」
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束芋
「ほんとにカットカットの選び方とか、すごく繊細に選ばれてるんだろうなと思います。ただ人間が出てこないだけでそんな効果を得られるとは思いませんし、すごく表情豊かというか… キャラクターそれぞれがすごく表情をもっている… と思うんですけど、現場での役者さんへの指示っていうのがどんなものだったのか、すごく知りたいんですけど…」
七里
「あ、もうそこにいきますか…(笑) えーと、普通アフレコっていう言葉があるように、画に対して音をつけていくのが、たぶん暗黙のルールなんですけど、これは先に声を録ったんです。だから俳優さんは、その… どんな画がつくかはわからないまま… その… まあ、ラジオドラマみたいなことで、っていうふうにはお話したんですけど、その、そういうふうにお話すると、要は芝居が過剰になっていくんですよね… で、あ、間違えた、と思って…(笑) で、その… そうではなくて、普通に、芝居をしてください、と… ただ、カメラはありません、って…」
束芋
「ほんとにマイクの前で、もう他のシチュエーションは… そのシチュエーションをつくるのではなくて、マイクしかないんですか?」
七里
「えーと… これは裏話になっちゃうんですけど ──」
と、現場での裏話なども続き ──
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束芋
「映画なのに、フレームで切るんではなくて、フレームの外の方が重要になってるような気がして。もちろんフレームの中の映像もその入口で、すごく印象的なんですけど… ただ実際に映画として観なかったら普通の映像というか、なんの変哲もない映像なのに、このカットの続きで… この役者さんの言い回しで… っていうのが乗せられてくるとそれがすごく重要なカットになってきて、そこからの世界の広がりっていうのがあまりにも広くて ──」
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束芋
「やっぱり私の好きなのは、写真でもそのフレームの外をきっちりさせてくれるようなものなんですけど… でも、これから『眠り姫』が私の中で、どんなふうに、こう… 私の生活に影響してくるかっていう… たぶん時間を追うごとにそれも変わってくると思うんですよね… どんどんどんどん自分の中で成長していく映画だと思うので ── 」
予定終了時刻を越してもトークショーは続いていきました …
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「ゴス展」 横浜美術館にて開催中 ── 束芋さんの映像インスタレーション作品 《ギニョる》 が出品されています。
*開催期間:2007年12/22土〜2008年3/26水 ぜひお見逃しなく!
トークショー 03
柴田元幸さん(東京大学教授、翻訳家) ×七里圭監督
2007.12/3(月)@渋谷ユーロスペース
ポール・オースター、スティーヴ・エリクソン、スティーヴン・ミルハウザー、リチャード・パワーズなど数多くの現代アメリカ文学の翻訳に尽力し、その他にも多くの海外小説の日本への紹介や研究、さらには自身のエッセイなどでも著名な、柴田元幸先生(東京大学教授、翻訳家)をお迎えしてトークショーが行われました。場内は立ち見も出るほどの満席。七里監督も、さすがに緊張していた?様子です。
以下ほんの一部のみ抜粋します (*敬称略) ──
柴田
「僕は以前に試写の時に観て、観終わって試写会場から外に出て、ふと目の前にあった街路樹を見たらそれがいつもとまったく違って見えたんです… 観たあとに世界がまったく違ったふうに見える映画って、僕は “強い映画” だなって思ってて… そういう意味では、この『眠り姫』っていうのはすごく “強い映画” だなって思うんです──」
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七里
「あの… 実は僕はいま、柴田先生の顔を見ることもできないほど緊張してまして ──」
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柴田
「あの、見てもたいしたもんじゃないと思いますけど(笑) ──」
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柴田
「じっくり拝見したのは今回で二度目で、ますますこの映画の、なんというか、“深さ” みたいなものを感じました ──」
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柴田
「これがいちばんの大元の内田百閒「山高帽子」で、今日も行きの電車の中でちょっと読んでたんですが ──」
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七里
「大体の映画ってストーリーテリングじゃないですか。そのストーリーを語る上で、邪魔になる瞬間、あるいは邪魔でないまでも効率的ではない瞬間ってあると思うんです。映像で語る映画とかドラマはそういうものを排除しがちではあると思うんですけど、逆にそういう瞬間だけをつないでいって映画をつくれないものだろうか、って思ったりしてました ──」
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柴田
「この『眠り姫』でも『ホッテントット・エプロン─スケッチ』でも、なんていうんですかね、“わたし”っていうものがいろんな意味で揺らいでいる ── 曖昧になっている ── とかだと思うんですけど、それは七里さんにとってすごく親しいものと言っていいのかどうかわからないけど、とにかく正常の側から異常を見てるって感じではぜんぜんない気がするんですけど ── 」
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七里
「あの、ずっと興味があったことではあるんですよね、自己の中の他者性、みたいな… 自分っていうのは一人ではない、っていうか… 自分が溶けていく… 離人症みたいなもの ── 」
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トークショー 02
山本直樹さん(原作者、漫画家) ×七里圭監督
2007.11/23(金・祝)@渋谷ユーロスペース
映画『眠り姫』の原作者・山本直樹先生(漫画家)をお迎えしてトークショーが行われました。
七里監督は、映画(『眠り姫』)のことはそっちのけ? で、山本先生の話題の新作「レッド」のことを聞きまくっていました(笑)。
以下ほんの一部のみ抜粋します (*敬称略) ──
七里
「えーと、今日は、僕はこの映画の監督というよりは、山本直樹ファンの代表として、先生にいろいろ質問しようと思っております(笑)。ということになると、やっぱり今日は… まあ『眠り姫』なんですけども… でも、まず!「レッド」のことを聞かないと何も始まらないな、と(笑)」
山本
「売れないと困るんです…(笑)」
七里
「でもけっこういろんな本屋さんで売れ切れ、増刷待ち、という話を聞いてますが…」
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七里
「まず、ちょっとお聞きしたかったのがですね… なぜ山本先生が ── “山本直樹”が、いま連合●軍なのかと… レッドなのかと」
山本
「あ、言っちゃいましたね。フィクションなんですけど(笑)」
七里
「あああ、いちおうフィクションでしたね…(汗) しかもエロなし…」
山本
「前から興味があって、いろんな人たちの本読むのが好きだったのですが、やっぱり面白いんですよね、怒濤の青春もの? 前半─青春山岳小説、後半─青春虐殺小説…で。画的にも画が浮かぶんですよね。これは漫画にしたら絶対面白いだろうなあ…って、誰かやんないかなあ、俺はやんないけどねえ って思ってたんですけど(笑)。 だってこれ漫画にするとしたらすごく面倒くさいんですよ。当時の背景、当時の服、当時の車、街並も… これ書くのはすごい面倒くさいよなあ、でも誰かやんないかなあ、俺はやんないけどねえ… ってずっと言ってきたんです。で、ある晩ちょっと編集さんと飲んでる時に、「やっちゃいましょうよ」って言われて… 僕も酔っぱらってて「じゃあやっちゃいましょうか」って…」
七里
「つい言っちゃって…?(笑)」
山本
「ええ… お酒ってこわいですね…(笑)」
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七里
「でもなんか“山本直樹”というとですね、その… 「ありがとう」とオウム事件と言い、題材が… 時代を先取りしたり、時代とリンクしたりしてきたと思うので…」
山本
「これ(「レッド」)は時代とリンクしてないじゃないですか(笑)」
七里
「そうなんですよ。だからなぜいま「レッド」なのか、っていうのが僕はすごく興味があって… まあ、なんかその… 「HOTTA 堀田」があって、その後に「レッド」っていうのは、なぜ、っていうのと同時に、やはりきたか! みたいな感じも実はあってですね… 普通の人が変わっていくっていうところがどこか共通するような…」
山本
「そうですね、普通の真面目な人がおかしくなる… 真面目なことを、いいことをしようとしてたら、結局とんでもないことになってた… みたいな、そういう話が好きなんですね。そういうことって繰り返し起きてるし… オウムもそうだし、終戦末期の日本軍だってそうだったろうし…なんか閉じたとこに行った結果、人がとんでもないことになる… みたいな。それをやっぱり書きたいなあ、と」
七里
「やっぱり「HOTTA 堀田」とか、すごくこう外連味あふれる妄想とか幻想が入ってくるじゃないですか。「レッド」なんかも、そういう意味での妄想や幻想のシーンは出てこないけども、やっぱりこの登場人物たちの頭の中に、何か共同幻想のようなものが浮かんできているのではないか、と…」
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「レッド」に関する七里監督の感想、質問が延々と続き、やがて…
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山本
「… 『眠り姫』の話、しなくていいんですか?(笑)」
七里
「あ、いや、そうですね。もっと「レッド」のお話を聞きたいところなんですけど、そろそろ…(笑)」
司会
「そろそろ 『眠り姫』の話、お願いします」
七里
「いやあ、そうですね、えっと… 『眠り姫』… 」
司会
「山本先生、あの、まず映画 『眠り姫』の感想を…」
山本
「僕がずっと前に観たのは、北沢タウンホール(東京/下北沢)でやった生演奏の時のものですけど、すごい不思議な空間がずっと流れていて、僕はすごく好きでしたけどね…」
七里
「あの時、先生が受付までいらして、僕いまでも憶えてますけど、先生「マジ、良かったです」 って言ってくれたんですよ。それでもうなんか、いままでの苦労がいっぺんに吹っ飛んだっていうか… あれは感激して日記にも書いたんですけど…(笑)」
DIARYページ ─ 2005年05月13日の日記のこと
山本
「映画 『眠り姫』… 大胆ですよね。俳優さんに、声だけ… みたいな(笑)」
七里
「もともとこの『眠り姫』の企画の最初は、『のんきな姉さん』公開の時の“山本直樹の小部屋展”が目的で、その時は、「テレビを消しなさい」という山本先生の…」
山本
「まあ、雑文集ですね」
七里
「はい、で、その中の“武蔵野緑地帯潜入記”っていうのがすごく良くて、それをイメージして武蔵野の風景をいかに詩的に捉えていくかっていうのがもともとで、それで、「それをやらせてください」っていうふうにたぶんお願いしに行って、それがなぜだか 「すみません『眠り姫』の原作をください」っていうことになったんだと…(笑)」
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七里
「あの… この中(「テレビを消しなさい」)にも書いてますけど、昔から先生は内田百閒の「冥途」が面白い、と」
山本
「はい、「冥途・旅順入場式」。文庫本だとふたつ一緒になってますけど、大好きで… 内田百閒は、のんきな鉄道エッセイも好きなんですけど、やっぱり「冥途」の、あの気の狂った感じが… 漱石の「夢十夜」をさらに頭オカシクした感じが大好きで… 「山高帽子」は、だからその中でもなんか好きで… あまり夢っぽくないちゃんとした普通の小説なんだけど、でもやっぱり友達が気が狂って死んじゃう… まあ芥川龍之介が死ぬ話なんですけど…」
七里
「先生は漫画にする際に、まあ芥川役の野口は男性だとしても、内田百閒であろう青地を女教師にしたわけじゃないですか」
山本
「だって男男の話は書きたくない、じゃないですか…(笑) だからいま逆にBL系の漫画家さんがあれを漫画にしたらまた面白いんじゃないですかね」
七里
「ああ、なるほど… でも、あの女教師にしたっていうのが、ものすごいスーパーアイデアだと僕は思ってまして…」
山本
「お話が色っぽくないと自分で書いてて楽しくないんで… だからいま「レッド」はたいへんで…(笑)」
七里
「エロなしですしね…(笑) そういう話になると、やっぱりちょっと「レッド」の話に戻っていくとですね… えーと、すみませんね、なんだかファン丸出しで(笑)。えーと… さっき、もしかしてこの表紙はYMOの「増殖」なんですか?って聞いたのですが ──」
と、話はまた「レッド」へと戻っていくのでした …
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山本直樹 「レッド」 ── 第1巻 KCデラックスより絶賛発売中!
「イブニング」(講談社)にて隔号絶賛連載中!です。
初日舞台挨拶
満員御礼!盛況に初日を迎えました。
2007.11/17(土)@渋谷ユーロスペース
七里圭監督の舞台挨拶より──
「本日は寒い中、ご来場いただきありがとうございます。この映画は実は、今日のような日を迎えることができるとは夢にも思わなかった作品でして、そのへんのことはちょっと長くなるので今は省きますが、撮影だけで足掛け二年、それから公開にいたるまでにさらに二年、合わせて約四年かけて今日の日を迎えることができました。それはもう、かかわって下さった多くの人々、その中でもやはり、ほんとにごく少人数でつくりあげた、その少人数のスタッフたちのお陰だと思います。この場をかりて心から彼らにありがとう、と、感謝の意を捧げたいと思います。個人的には、僕はユーロスペースでこの映画を公開できることがとても嬉しいんです。というのは、僕が大学生の頃、80年代の終わりぐらいから90年代にかけて、この映画館で、と言ってもここに移る前のあちら側の坂の上にあった頃の話ですけども、たくさんのいい映画を観てきました。いま頃たぶん(東京で)撮影をしているであろうレオス・カラックスの『汚れた血』だとか… 世界にはいろんな映画があるんだなということを、ユーロスペースで教えてもらいました。そんな劇場で自分の映画をかけてもらえるのはほんとに感激です。しかもこれだけたくさんの方に初日に来ていただいて、ほんとにありがたく思っております。かなり変わった映画ですがじっくりとご覧ください。どうもありがとうございました。」
トークショー 01
侘美秀俊さん(音楽) × 特別参加!山本浩司さん(声の出演) × 七里圭監督
2007.11/17(土)@渋谷ユーロスペース
上映後には、音楽の侘美秀俊さんを迎えてトークショーが行われました ──
そして途中、サプライズゲストとして山本浩司さん(声の出演)に加わっていただきました。
以下ほんの一部のみ抜粋します (*敬称略) ──
司会
「まずは初日を迎えた感想を、音楽を担当された侘美さんの方から… いまご覧になってたんですよね?」
侘美
「久しぶりに観て、一年ぶりぐらいですかね… ああ、こういう映画だったなあ、と。そういえばいま観てて気付いたことが一つあるんですけど、ピアノのシーンあるじゃないですか。あそこの音楽だけ僕じゃないな、と思って(笑) あそこは七里さんが弾いてたんですね ──」
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司会
「七里監督と侘美さんは、『眠り姫』のずっと前からの古いお知り合いということですが、以前、同じ山本直樹さん原作の映画『のんきな姉さん』公開の時(注・2004年1月)に、一度、第一次『眠り姫』を発表されてますよね?」
七里
「第一次と言っていいのかどうかわかんないですが… その、いろんな事情があって、『のんきな姉さん』公開時のイベント・山本直樹展のためにとにかく間に合わせた“『眠り姫』ちゃぶ台仕様バージョン”というのがありました。それはもうほんとに冒頭に映りましたあの樹が、その時はまた違う画、違う時に撮った画なんですけど、こう、夜があけていくだけの40分間の映像にボソボソボソボソと会話だけが聞こえてくるっていう… それがまずあって。で、まあ最初からそういうふうにしたかったわけじゃなくて、もっと違うものをつくろうとしてて間にあわずにそういうものを間にあわせて。で、『のんきな姉さん』公開中の最後の方(注・2004年2月)にオールナイトイベントをやったんですけども、そこまでに一回とにかく、その、つくったんですね…」
司会
「その時はまだ侘美さんは音楽はつけずにいたんですか?」
侘美
「そうですね、音楽はなかったですね。で、セリフは… 確かあったんですよね…」
七里
「その時は侘美さんがセリフの切り貼りをしてくれたんです(笑) ──」
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司会
「侘美さんは、七里さんの創り出す映像に音楽をつけるっていうのはどんな感じなんですか?」
侘美
「どうなんですかね… 難しい… ですね。ただ、この『眠り姫』の音楽のあり方ってすごく面白いですね。普通は、こう、背景音楽ってセリフの裏で、感情を左右するような音楽が後ろで鳴ってるっていうのがなんか普通の映画音楽なんですけど、今回の作品ってエピソードとエピソードの間にはさまってるっていう… それは映画にしても音楽にしてもとても居心地のよいあり方だなあと思って。僕はこれがとても好きなんです ──」
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そして、サブライズゲストとして途中から山本浩司さんに加わっていただきました ──
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山本
「僕はむかしテアトル新宿でやった40分バージョンの時を観てて、それが80分になったよ、っていう話を聞いて、そんなバカな!って…」
七里
「 ──「オレはそんなにしゃべってないぞ!」 って?(笑)」
山本
「どうやったら40分が80分になったんだろう… ってすごい興味があって。でも、今日観てみて、そんなぜんぜん薄まるどころか、なんていうか、読書に近いような “ひきこまれ感” っていうか、想像力をかき立てさせられて… 眠れるかなって思ってたんですけど、最後までずっと集中して、すごく“ひきこまれて”観てしまいました… あっという間でした、はい ──」
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七里
「あ、そういえばいま思い出したんですけど、あの40分のをオールナイトで上映した後、裏で話してた時に山本さんに、「いやー僕ぜんぜん
わかんなかったです」 って言われました(笑) … だから、良かったです ──」
山本
「僕わかんなかったですね、あの時はたぶん… まだ事務所にも入ってなかった頃ですね(笑) ──」
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山本
「でも現場では監督にいろいろと質問して… 「めし食いにいくべし」の「べし」って何ですか、とか(笑) ──」
七里
「あー、聞かれた…」
山本
「どっかの田舎の出身なのか、カップルギャグで言ってるのか、とか」
七里
「僕、なんて答えてましたか?(笑)」
山本
「なんか、照れ隠し、みたいな… 確かそういう言いまわしでごまかしてる、ような… そんな感じの答えだったかと ──」
司会
「声だけで映らずに出演するっていうのは、どんな感じだったんでしょうか?」
山本
「そうですね… 顔が映らないんでどんなイケメンにも想像してもらえるのがメリットでしたね(笑)… あと、今日観て改めて思ったんですけど、僕すごい訛ってますよね?」
七里
「あ、そうですか?(笑)」
山本
「たまによく現場でも言われるんですけど…」
七里
「でもいい感じでしたよ… 訛りが… 朴訥として…」
山本
「あっ、だから 「べし」 … みたいな?(笑)」
七里
「じゃ、そういうことにしておきましょう (笑)」
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司会
「七里監督にですが、“人が出てこない”っていうのが『眠り姫』のふれこみにもなっていると思うんですが、そのへんのやりたかったこと、みたいなことをちょっと聞きたいんですけど…」
七里
「それは答えを用意してこなかったんですけど(笑)… えーと… ずっと疑問に思っていたのは、映画って映ってしまうことがすごく不自由だなって思っていたんです。それってなんかうまく言えないんですけど… 何かを映さなければいけない…。さっき山本さんが言ってくれたように、小説とかだと“絶世の美女であった”とか書けばそれを想像してもらえるんだけど、映画の場合はその絶世の美女を映さなきゃいけない、っていう不自由さがあって… なんとかしてそういうことを越えて想像させるにはどうしたらいいんだろうってずっと思っていたんです。で、何かを抜けば… 欠落させることでその隙間を想像力で埋めてもらう… っていうような映画をつくりたいなあと思っていたんですけど ──」
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宮沢豪写真展 『眠り姫〜光と音について』
映画『眠り姫』のスチルを担当した写真家・宮沢豪の写真展が開催されました。
2007.11/6(火)〜11/11(日)@渋谷ギャラリー・ルデコ3F
その光からは、いったいどんな音が聞こえてくるのだろうか ──
その闇のなかに、いったいどんな物語が見えてくるのだろうか ──
これは宮沢豪が写真で考察するもう一つの『眠り姫』の世界
窓越しの風景
空と雲
高速道路
遠くに見える飛行機の小さな影
川
虹
街灯
血痕のように赤い、車のバックライト
風にゆれる柳
花
水槽の金魚
鳥
雑草
そしていくつかの小さな死…
凍結された光と影 ──
そこに、日々絶え間なく繰り返されているはずの死生の響きを感じていただけたら幸いです。
多数のご来場をありがとうございました。
Live before the Day Breaks 〜 寝た娘をおこすな
2007.11/6(火)〜11/11(日)@渋谷ギャラリー・ルデコ3F
写真展開催中に連日連夜、様々なLIVEイベントが行われました。
取り急ぎ写真のみ掲載させていただきます。
多数のご来場をありがとうございました。
photo by Tsuyoshi Miyazawa
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